身の回りには各々特徴を持った食品が数多くあります。
例えばチョコレート。
チョコレートの独特の食感と口溶けには「カカオバター」の特性が関わっています。
カカオバターは乳製品のバターと明確に違った食品学的特徴があります。
それは融解特性の違いです。
融解とはその食品が溶けることを言います。
冷蔵庫から出したばかりの乳バターは見た目は固形ですが、実際は半分以上が液体(結晶割合が少ない)です。
そしてそのまま放置しておくと徐々に軟らかくなり、熱したフライパンなどに乗せるとすっかり液体になります。
ではココアバターがどうかと言うと、低温から25℃くらいまではバターよりも水分が少なく結晶割合が高く(硬さの変化が少ない)個体の状態を維持します。
これは食べる前は手で持ててパキンと割れるスナップ性に関わっています。
そして25℃を超えたあたりから溶け始め、30℃を超えると一気に結晶の割合が減少します。
この落差がチョコレート独特の口溶けに関わっています。
(※図7を参照)
ただ一口にココアバターの結晶、といっても結晶具合で溶けやすさ(質感としての硬さは口溶けの良さ)に変化が現れます。
結晶具合というのは、同じ炭素原子でも結晶構造の違いで鉛筆の芯からダイヤモンドまで硬さ性質が異なるのと同じようなものです。
硬いココアバターは性質としては安定していますが、口溶けが悪くチョコレートとしての質はあまり良くないため、その一歩手前の準安定状態が商品として最も望ましい状態と言えます。
この様に安定と不安定の狭間でせめぎ合う食品(加工品)は数多く存在します。
成分として「安定化」すると言うことは、食品としては「劣化」と言えます。
チョコレートの他にもマヨネーズも同じようなことがいえます。
水と油が溶け合っていてこそのマヨネーズですが、食品成分としては分離して水は水、油は油で固まったほうが安定と言えます。
長い間冷蔵庫で放置しておくと分離してしまいますね。
また、これは「人」にも言えることだと思います。
社会的にも家庭的にも安定することは非常に望ましいですが、その安定に鎮座し続けると人としての魅力は「劣化」してしまうと思います。
安定と不安定を行き来すると疲れますが、活きのいい人生になりそうです。
図、内容は、上野聡著「チョコレートはなぜ美味しいのか」より