夏至を過ぎ、熱中症の対策が必要な暑い時期になってきましたね。
皆さんはなにか対策をとっているでしょうか。
- 水分をしっかりとるようにする
- 塩分も意識してとる
- スポーツドリンクを利用する
- 塩飴を携帯して適宜なめている
- 生活リズムを整える
- 食事をバランスよく食べる
などをされている方はよく耳にします。
さて、これらは熱中症の「予防」に効果があるのでしょうか。
それとも「治療(改善)」に効果があるのでしょうか。
それらについて、気をつけたいことを簡単にまとめていきたいと思います。
まずは「熱中症」について
熱中症は暑さによって生じる障害の総称で、各病型に分類されます。
以下に分類を示しますが、特に注意が必要なのは3と4の熱疲労と熱射病です。
①熱失神
暑さによる皮膚血管の拡張、下肢への血液貯留のために、循環血液が減少し血圧低下、脳血流が減少して起こります。
めまいや一過性の意識消失などの症状が見られますが、通常は脚を高くして寝かせることですぐに回復します。
汗をかいて脱水状態にもかかわらず、急に動きを止めて循環が滞ることで熱失神となる可能性があります。そのため急に運動を停止せず脈が落ち着くまでは歩行などで体を動かすのが望ましいです。
②熱痙攣(けいれん)
汗を大量にかくことで水分だけでなく塩分(汗にも塩分;ナトリウムが含まれます)も失います。
そういったときに塩分を含まない水のみを補給して体液が薄まる(浸透圧の低下)ことで、痛みを伴うような筋痙攣(こむら返り)を引き起こしてしまいます。
下肢だけでなく上肢や腹筋などにも起こります。
生理食塩水(0.9%食塩水)などの補給や点滴などによって回復が見られます。
③熱疲労
水分を摂取していても脱水の進行に追いつかず徐々に脱水が進んでいくイメージで、倦怠感、脱力感、めまい、頭痛、吐き気などの症状が見られます。
スポーツドリンクなどで水分と塩分(糖分も吸収面に配慮し設計されたものもあります)を補給することで改善が見られますが、嘔吐などの影響で摂取ができない場合は点滴などの医療処置が必要です。
④熱射病
短時間に多量の発汗が起こり、汗が止まり循環不全を起こすことにより体温の調節機能が破綻し、体温が40℃以上まで上昇し脳機能にも異常をきたした状態です。
意識障害や見当識障害などから進行すると昏睡状態になります。
高体温が持続すると脳だけでなく、他の内臓の障害(多臓器不全)を併発し死亡率が高くなります。
救命できるかどうかは、いかに早く体温を下げられるかにかかっているので、救急車の要請と速やかな冷却処置対応が必要です。
脱水率が3%を超えると発汗が止まると言われており、ウェアが濡れていないようだと早急な対処が必要な状態であると言えます。
脱水状態の目安
上記の写真は大塚製薬工場さんのOS-1紹介ページよりお借りしました。
基本的に数時間の運動・スポーツによって起こる体重減少は水分の減少によるものがほとんどです。
運動後の体重が運動前より2%以上減少していれば、脱水の進行、水分の摂取不足が懸念されます。
例えば、プレー前に60kgだった選手が、2時間のプレー後に58.8kg未満であれば、2%以上の脱水であると言えます。
プレー中に水分を摂取していたとしてもこういった状況であれば、水分の摂取方法を見直すべきと言えます。
脱水率については、以下の図に示す式に運動前後の体重を代入して計算してみてください。
ちなみに私が現在サポートしているチームの選手約10名で計測し脱水率を算出したところ、4時間の練習において1/3の選手が2%以上の脱水となっていました。
*19年5月、同チーム選手へ体重測定を実施したところ、同様の傾向にありました。
測定日は晴れ日の屋外で、気温31-34℃、相対湿度約50%でした。
また選手らの水分摂取量を4時間の練習のうち1時間だけ計測したところ、およそ500ml/hに満たない摂取量だと2%以上の脱水になりやすいようでした(あくまでも1時間の摂取量と脱水率の関連です)。
「自発的脱水」を防ぐために知っておくべきこと
自発的脱水という言葉はご存知でしょうか。
熱中症の対策で上述したように適切に水分を摂取しておくことはスポーツのパフォーマンスを落とさないだけでなく、命を守ることにもなります。
上記の写真をご覧ください。
カラダの青色の高さは水分の量を、青色の濃さは浸透圧を示しています。
左端はニュートラルな状態で右に向かって自発的脱水が進行する様子を示します。
運動後(活動後)は汗をかくことで水分が減り体液としては濃くなっています(汗には塩分も含まれていますが、水分のほうが量が多いので最終的には体浸透圧は上昇します)。
そこで塩分を含まない水を摂取しました。
すると、水分は満たされ元の量まで上昇しましたが、当然体浸透圧は低下します。
ここで浸透圧が低下しすぎる(低ナトリウム血症になる)と、吐き気や頭痛、意識障害を引き起こす原因となります。熱中症とは別の問題です。いわゆる水中毒というものですね。
こういった症状が出てしまう前に、体は尿量を増やし水分を減らし浸透圧を保とうとします。
すると最終的に浸透圧はニュートラル状態に戻りますが、水分量はリカバリーしきれていません。
実際に水分が減っているために、血液循環の低下やこむら返りなど熱中症のリスクが残存してしまうことになります。
スポーツにおける水分補給の目安
水分補給のポイントについてまとめました。
水分摂取において大きなポイントとして、
- 摂取するタイミングと量(ペース)
- 水分の組成
が挙げられます。
特に水分組成は前述した「自発的脱水」を防ぐためにも抑えておきたいポイントとなります。
経口補水液として適切な糖・塩分濃度について
自発的脱水を防ぐためには塩分の同時摂取が重要とお伝えしましたが、どのくらいの濃さだとよいのでしょうか。
また、せっかく飲んでも効率よく、すばやく吸収されるためにはどうしたら良いだろうか?という問題もあります。
経口補水液として吸収、飲みやすさなどの点から糖分は4-8%が、塩分は0.1-0.2%が適当とされます。
その濃度を各種飲料ごとにプロットした上の図をご覧ください。
薄い青色で示したところが吸収に適した糖・塩分濃度帯です。
赤プロットは至適下限と上限を示します。
今回は主要なスポーツ飲料類についてのみ示します。
OS-1は飲んだことのあるかたもいらっしゃるかと思いますが、やや塩っぱくて甘みがあまりないことが図からもわかると思います。運動時には飲みにくいですね。
ここで重要となるのは、飲みやすさだけでなくどういった目的で水分を選ぶかということになります。
「味」で選択してしまった場合…例えばコーラのような甘い飲料は吸収面からも運動中の補水液には進められません。実際飲みにくいですよね。
エネルギー補給を目的とするのか、アミノ酸など筋補修リカバリー目的に摂るのかなどによって選択しは変わります。
エネルギー補給を目的とするならば、糖質濃度が高いものが有効であるということもご理解いただけると思います(糖質の種類によっての違いがあるが今回は割愛)。
また、水温は先に5-15℃が望ましいと示しましたが、運動中にそれを保つのは難しいです。
そのため、水筒に氷をたくさん入れて飲料をキンキンに冷やし過ぎない程度に気をつけると良いと思います。
冷たすぎると、口にしたときに飲んだ気になってしまって、実際は目標の量を飲めていない可能性があります。
熱中症を防ぐために大切なこと
熱中症について、また自発的脱水のメカニズム、勧められる水分の組成やタイミングなどについて図を用いて説明しました。
吸収面に配慮した飲料は各メーカーから多数販売されていて迷うかと思いますが、上記の図を参照して選んでいただければと思います。
しかし、合わせて重要なのが体重の変化、水分減少を意識することです。
練習の前後だけでなく、普段の自身の体重を知っておくことで、脱水傾向にあるかが把握できます。
また、今回は水分補給を中心とした説明でしたが、食事を欠食しないということも重要なポイントとなります。食事は栄養だけでなく、1日に必要な水分や塩分の供給源となるためバランスの良い食事をしっかりととりましょう。
そして運動時には2%の減少になってしまう前に適切なタイミングで、適切な飲料を選択し、脱水からの熱中症に注意して夏を乗り切りましょう!
参考書籍等
- 日本文芸社、理論と実践 スポーツ栄養学、鈴木志保子
- 東京大学出版会、スポーツ栄養学 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる、寺田新
- 公益財団法人日本体育協会(現日本スポーツ協会)、スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック
最終更新2019/05/18
コメント
[…] (水分補給のポイントについてはこちらを参照ください) […]
[…] 水分補給についてはこちらもご覧ください。 […]
[…] それにしても、今日はとても蒸し暑かったので水分補給のが課題かも(^_^;)もっと暑くなる前に、早めに伝えていかなくちゃ! […]
[…] 練習後にも体重を測って脱水率を求めます。その理由はこれからの時期で注意したい「熱中症」の予防のためです。 […]
[…] 飲水だけを頑張って増やすよりは、不要な食事制限を続けていないかも見つめ直してみてください。*便秘とは趣旨からはずれますが、特にこれからの季節は脱水からの熱中症にも注意が必要です […]